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「今は仕事なにしてるの?」
カナにそう訊かれて僕は、原宿で若者向けの服屋を経営してるよ。と答えた。
咄嗟に出た嘘だった。
本当の事を話すとカナはきっと「大丈夫?」とか「大変だね」とかそんな感じの事を言うだろうと思った。
そういう慰めや励ましの言葉を掛けられると、その瞬間に僕とカナの間になにか絶対的な壁が隔てられるような気がしたし、その壁は消えることはないだろうと思うと、怖くなり嘘をついてしまった。
カナは僕の目をじっと見て時折、相槌を打ったり、頷いたりしながら真剣に僕がつく嘘を訊いている。僕は途中から目を合わせることが出来ずに視線を少し落とした。カナの着ているジャケットの襟元には小さなブローチが縫い付けられていた。
金色の枠にビー玉みたいな緑色の宝石が填め込まれている。
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