左眼の傷痕

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「シェリフ。よく頑張ったね……」  俺は左前足と右後足に包帯を巻かれていたが、傷自体は大したことはない。  ただ全身打撲で動きがぎこちなく、ふらふらと多香子に連れられて、奥の部屋にある爺さんのしかめっ面の遺影を拝みに行った。  爺さんが死んだなんて信じられないが、俺が動物病院に入院してる間に遺体は焼かれてもう遺骨になっていた。  祭壇の前に壊れた猟銃が置いてあり、あの血生臭い戦いを想起させ、俺は目頭を熱くして遺品の匂いを嗅ぐ。  多香子も爺さんが死んだなんて信じられないよと、焼香をあげながら俺に呟いた。 『保安官……』  その証拠に爺さんの遺影がしゃべった。 『えっ、え~?』  いや、それは、俺の頭の中で、爺さんの魂が俺に語りかけたみたいだった。 『多香子もすっかりいい女になったな。いつの間にか胸も膨らんでいるじゃないか……』 『爺さん。やっぱり生きていたのか?』 『ん、ま~な。お前の頭の中にかろうじて魂が残ったみたいだ。ある種、分身みたいなもんじゃな……』 『やはり、あの熊の胆の力が作用したのか?俺がこんな怪我で済んだのも奇跡だ』  俺が頭の中の爺さんとそんな感じで話していると、多香子が不思議そうな顔でこっちを見つめた。 「シェリフ。どうかした?」  俺は「クゥ~ン」と、甘えるように鳴いて誤魔化したが、それがもう少しで「ウゥ~ン」と、人間の言葉になりそうになり、慌てて前足でじゃれた。  喉が焼けるように熱く、気のエネルギーが溜まっているのを感じる。  もう少し集中すれば、片言の人間語ぐらい話せるかも知れないぞ。
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