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危険レベル
真夜中に血気にはやる猟犬達は月に向かって吠えていた。
そんな馬鹿なガキどもに死の臭いがするのがわからねえかと、忠告してやったんだが……。
「老いぼれめ、怖じ気づいたか」などと歯茎をむき出しにして笑いやがった。
しょうがねー。こいつらは普通の犬ころだからな。俺は生まれた時から特殊な能力と考える力が備わっていた。
察知能力も鋭敏で、危険度レベルが跳ね上がっていることを知らせている。
若者の混ざった猟師十三人と四匹の集団は陽が昇る直前にこの小屋を先に立った。
その数十分後、朝靄の森の奥から威嚇するような吠え声が聴こえてきた。
それは木の葉の衣擦れのように、森が震えてこの白神山周辺に伝わった。
小動物は鳴き声も上げずに逃げ惑い、鹿は飛び跳ね、猪は尻尾を巻いて遠去かる。
そして、数発の銃声が惨劇の合図のように轟いたのである。
俺は三角の耳をツンと立てて首をまわしただけだが、主人は二日酔いのくせに一瞬にして起き上がった。
マタギとしての勘が酒酔いを上回ったのだろう。猟銃を持ってすくっと立ち上がる。
「保安官起きろ。谷へ向かうぞ」
上着を着て小屋の外に出ると、仁王立ちになって壮大な風景を見渡した。
その主人のシルエットが冷たい風にも揺るがない勇気を示している。
しかしその股の間から見える谷の森には、恐怖を覆い隠すような真っ白なモヤが溢れかえっていた。
「保安官行くぞ」
主人は振り返って二度も俺の名を呼んで、重くなっている四肢を無理やり奮い立たせた。
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