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黒い影
薙ぎ倒された樹木の横に、見たこともない異様な足跡があった。
それは熊の二倍くらいの大きさがあり、指の真ん中に太いカギ爪がある。
こんな生物がこの世に存在する筈がねーよな。
俺はその足跡を追って霧の渦巻く谷の真ん中に入った。
そして足跡が血の混じった水に埋もれていくのをうんざりとした顔で見る……。
そこら辺には引き千切られた無惨な死体の山が散乱し、人間も犬も全滅したことを教えていた。
さらに、白い霧の中に黒い影が亡霊のように映っている。
この殺戮の主は俺たちが来るのを待ち受けていたのだ。
俺は後ろで銃を構えている爺さんに合図するようにその黒い影に向かって低く唸った。
「グゥ~ウ~」
出来ることならこんな奴に対面することもなく逃げ出したいが、そうもいくまい。
俺は血の水を蹴り死体を踏み台にしてその影に飛びかかった。
この場合、機先を制して爺さんの銃の腕前に期待するしかない。
しかし、それはなんの効果もなかった。霧から現れた黒く太い腕に俺は一発で弾き飛ばされたのだ。
くそー。爪痕も残せね~のか。
俺の身体はブナの木にぶち当たって地面に崩れ落ちていた。
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