失ったもの

3/17
前へ
/25ページ
次へ
「身元は分かったかね?」 「いいえ、孤児院はあの様子ですし…」 ………? 「孤児院の人間はいないのか?」 「この子以外は全員遺体で見つかりました。爆弾の威力から察すると、この子が生き残ったのは奇跡です。」 薬の匂い………病院? 「奇跡だろうが何だろうが、今は戦時下だ。身寄りの無い子供をいつまでも置いておくわけにはいかん。」 「しかし、院長…」 「怪我が治り次第退院させろ。さっさとベットを次の怪我人のために空けなくては。」 …何で病院にいるんだ? 「この状況でこんな小さな子供を一人で放り出すのですか!?」 …何の話をしているんだ? 「……昨日、ベルカの空挺部隊が我が軍最後の空軍施設を制圧した。制空権を完全に失ったら、補給は断たれたも同然だ。…この病院は地獄になる。」 「そんな!」 「あの子には悲劇が多過ぎる。これ以上悲惨な光景をみせてやるな。」 ……もしかして俺の事なのか? 「あ、目が覚めたのね。お水飲む?」 言われてみれば喉がカラカラだ。渡されたコップ一杯の水を一気に飲み干す。 「あなたが一命を取り留めたのは奇跡だったの。3日も寝てたのよ。」 …3日も? 「そうよ、…ところであなた、お名前は?」 名前? 「うん。私はメリー、ここの看護婦よ。あなたは?」 わからない。 「え?……自分の名前よ?」 わからない。 「……わかったわ。もう少し眠りなさい。大丈夫、きっとすぐに思い出すわ。」 …そうする。 「おやすみなさい。……。 …院長、大変です。」
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加