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「身元は分かったかね?」
「いいえ、孤児院はあの様子ですし…」
………?
「孤児院の人間はいないのか?」
「この子以外は全員遺体で見つかりました。爆弾の威力から察すると、この子が生き残ったのは奇跡です。」
薬の匂い………病院?
「奇跡だろうが何だろうが、今は戦時下だ。身寄りの無い子供をいつまでも置いておくわけにはいかん。」
「しかし、院長…」
「怪我が治り次第退院させろ。さっさとベットを次の怪我人のために空けなくては。」
…何で病院にいるんだ?
「この状況でこんな小さな子供を一人で放り出すのですか!?」
…何の話をしているんだ?
「……昨日、ベルカの空挺部隊が我が軍最後の空軍施設を制圧した。制空権を完全に失ったら、補給は断たれたも同然だ。…この病院は地獄になる。」
「そんな!」
「あの子には悲劇が多過ぎる。これ以上悲惨な光景をみせてやるな。」
……もしかして俺の事なのか?
「あ、目が覚めたのね。お水飲む?」
言われてみれば喉がカラカラだ。渡されたコップ一杯の水を一気に飲み干す。
「あなたが一命を取り留めたのは奇跡だったの。3日も寝てたのよ。」
…3日も?
「そうよ、…ところであなた、お名前は?」
名前?
「うん。私はメリー、ここの看護婦よ。あなたは?」
わからない。
「え?……自分の名前よ?」
わからない。
「……わかったわ。もう少し眠りなさい。大丈夫、きっとすぐに思い出すわ。」
…そうする。
「おやすみなさい。……。
…院長、大変です。」
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