失ったもの

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目が覚めてから10日後、メリーという看護婦は暗い顔でプレゼントを持ってきた。 「この鞄の中には、保存のきく食料と水を詰めておいたわ。」 …と言うと? 「退院おめでとう。」 …うん。 「院長が治療費を立て替えてくれたわ。…最後に挨拶をしていってね。」 …うん。 怪我は比較的早く回復したが、10日経っても記憶はカケラも戻らなかった。…むしろ遠退いていくような感じがしたが、この病院の医者達は諦めたりしなかった。 …この院長を除いて。 治療代ありがとう…。 「子供がそんな事気にするな。最も肝心なところは治らなかったのだし…その鞄は医者としてのケジメだ。」 …。 「もし君が記憶を取り戻すとしたら…。」 院長は地図のある地点に赤い鉛筆で×を書き込んだ。 「西だ。君が居たと思われる孤児院の場所。何か記憶を取り戻すきっかけがあるかもしれない。」 …なるほど、わかった。 「私個人としては、東に向かってもらいたい。」 …どうして? 「孤児院がある町の近くに空軍基地があるが、既にベルカの手に落ちた。ベルカ空軍と陸軍はそこを前線基地として使用している。…現在も激しい戦闘が行われているが、制空権なしで勝てる規模じゃない。」 …難しくてよくわからない。 「そこはすでに戦場だということだ。…言っておくが、この町に留まるのは辞めたほうがいい。もうすぐここも……」 …。 「まあ、どちらに行くかは君が決めたまえ。それと、もし西に行くなら…これを。」 …ナイフ? 「あやふやな国境線はもはや無法地帯と化した。護身用に持っていけ。」 わかった。 「用は以上だな。…サラバだ、少年。」 …さようなら。 「…生き残れ。」
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