19人が本棚に入れています
本棚に追加
目が覚めてから10日後、メリーという看護婦は暗い顔でプレゼントを持ってきた。
「この鞄の中には、保存のきく食料と水を詰めておいたわ。」
…と言うと?
「退院おめでとう。」
…うん。
「院長が治療費を立て替えてくれたわ。…最後に挨拶をしていってね。」
…うん。
怪我は比較的早く回復したが、10日経っても記憶はカケラも戻らなかった。…むしろ遠退いていくような感じがしたが、この病院の医者達は諦めたりしなかった。
…この院長を除いて。
治療代ありがとう…。
「子供がそんな事気にするな。最も肝心なところは治らなかったのだし…その鞄は医者としてのケジメだ。」
…。
「もし君が記憶を取り戻すとしたら…。」
院長は地図のある地点に赤い鉛筆で×を書き込んだ。
「西だ。君が居たと思われる孤児院の場所。何か記憶を取り戻すきっかけがあるかもしれない。」
…なるほど、わかった。
「私個人としては、東に向かってもらいたい。」
…どうして?
「孤児院がある町の近くに空軍基地があるが、既にベルカの手に落ちた。ベルカ空軍と陸軍はそこを前線基地として使用している。…現在も激しい戦闘が行われているが、制空権なしで勝てる規模じゃない。」
…難しくてよくわからない。
「そこはすでに戦場だということだ。…言っておくが、この町に留まるのは辞めたほうがいい。もうすぐここも……」
…。
「まあ、どちらに行くかは君が決めたまえ。それと、もし西に行くなら…これを。」
…ナイフ?
「あやふやな国境線はもはや無法地帯と化した。護身用に持っていけ。」
わかった。
「用は以上だな。…サラバだ、少年。」
…さようなら。
「…生き残れ。」
最初のコメントを投稿しよう!