19人が本棚に入れています
本棚に追加
鬼が普通のビジネストークみたいに話すのも妙な気分だ。あれで鬼と言われてもな。
なんだかどんどん彼らのペースにはまっているようだ。
通話を切り、携帯を彼女に返す。あまり大きくない目を思いっきり細めて、私に聞く。
「あのー、鬼さんとどんな話を?」
「うん、なんか向こうがトラブってるからとりあえず週末はここに泊まってけってよ。一応客用の布団あるから持ってくるわ」
「……」
うわ、すんげー睨んでるよ。なんだよ。嘘は言ってねえぞ。
「女日照りとか何の話ですか何しようとしてるんですかひょっとしてグルなんですか一体何企んでるんですか!?
大昔のしかもめっちゃ写りのいい写真とかずるくないですか!?」
「グルってキミね、そんなことしてオレに一体何の得があるの!」
とは言え、まあ若い娘と一つ屋根の下で過ごすという得はあるな。
死ねって言われたけど。
しかもこいつ写真に釣られたのか物好きだな。
「結構ですあたし帰ります」
と宣言し、彼女は大股で玄関に向かっていった。
「帰るって帰るとこあんのかー?」
「大きなお世話でおおおうふ!?」
妙な悲鳴が玄関から聞こえる。そんな叫ぶようなものは玄関にはないはずだが。
「どしたー?」
返事をせず、無言でメリーさんが肩を落としてリビングに戻ってくる。
「やっぱり泊めてください」
「いや、だから泊めるってば。
あ、ひょっとしてお泊まりセットとかいるか? コンビニ行く?」
「玄関から出られないんです」
「は? さっきは普通に玄関から入ってきたじゃんか」
「あたしだって良くわかんないですよもう!
……あ、メールだ」
携帯を開き、メールを確認して、メリーさんは大きく溜息をつき、がっくり下を向き、その状態のまま携帯を私に差し出す。
受け取ってみると、
「件名:メリーさんへ。
本文:当面あなたの行動を把握するため、ケンさんから5m以上離れないようにしてください。
ていうか離れられない設定にしました。
離れられない以外は安全です。
車に轢かれても大丈夫です。今のところ一応幽霊なんで。
ではまた連絡します。がんばってください。鬼」
というメール。
「まあ、その、なんだ、週末だけみたいだし、歯ブラシくらい買いに行こうぜ」
最初のコメントを投稿しよう!