鬼さん

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 なんだかいちいち騒々しい奴だ。さっきから叫んでばっかりじゃないか。 「まあ、落ち着いて。座れよ。で、誰に騙されたって? あ、何か飲む? 水しかないけど」 「ううう、座ります。いただきます」  冷蔵庫からペットボトルの水を二本取り出し、一本をグラスとともに彼女に渡す。自分のボトルの蓋を開けながら、ダイニングテーブルを挟んで彼女の向かいに座る。 「はああああ」と溜息をつき、メリーさんは話し始めた。 「鬼さんに騙されました」 「妹騙して中年男の部屋に行かせるってどんなお兄さんだ」  鬼畜過ぎだろお兄さん。 「あ、おにいさんじゃなくて鬼。鬼さんです。なんか全然記憶ないんですけど、気づいたら河原?みたいなところを歩いてて、あー、川があるなあ、どうやって渡ろうかなあ、って」  うむ、最初の一文字は合ってたな。 「あれだな、三途の川ってやつか?」 「ええ、そんな感じです。それで、見回しても霧っぽくてあんまり遠くが見えないし、途方に暮れてたら、川から鬼さんがやってきて。 あ、でも自分で鬼だって言ってただけで、今考えると微妙かなあ。川からざばざば上がってきたから河童かも。人相は超悪かったんだけど、ツノはあったっけなあ」 「鬼さんが『いやーお嬢ちゃん探したよー、オレ見ての通り鬼なんだけどさ、お嬢ちゃんこのままだと川渡るの大変だからさ、ちょっと頼まれてくんない?』って言ってあたしに携帯くれたんです。あ、携帯ラッキーとか思って開いたら、あなたの写真があってですねー。 で鬼さんが『ちょっとこいつに電話してみていいことあるから』って」  とりあえずあの世の鬼と携帯の関連性を問いただしたいんだが。 「えー、なんか、あの世は現世の鏡とか言ってましたよ。現世にあるものはあの世にもあるんだって」  そんなもんかね。  話しているうちに多少落ち着いてきたのか、メリーさんは、ペットボトルの水をグラスに注ぎ、こくこくと飲んで、はー、と一息つく。 「で、電話したんです。鬼さんがなんかボードみたいの持ってて、『あたしメリーさん。今ゴミ捨て場にいるのって言って!』って書いてて。ほらテレビのADさんみたいな」
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