1美しい生物

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 生物が綺麗だと思っても、人間を綺麗だと思ったことはなかった。  だから初めて彼女を見たとき、おれは初めて人間を綺麗だと思ったんだ。  美しい、と。  # # # 「あ、ハタさんだー」  黒木が満面の笑みを浮かべて手を振る。 「こら。ハタさんじゃなくて先生でしょうが」  おれの前でにへら、と気の抜けた笑みを浮かべる黒木の頭を、持っていたファイルで軽くたたく。  すると黒木は露骨に嬉しそうな、というかもっと気の抜けた笑みを浮かべて「センセ」とからかうように言った。 「部活?」 「うんっ。今終わったとこー」  黒木はおれが副担で受け持っているクラスの委員長だ。  見た目は少しチャラついているけど、しっかりした子だ。 「お疲れ。気を付けて帰れよ」 「送ってくれないんですかぁ?」  ぷく、と頬をふくらませる子供のような黒木。しっかりものだけど、実は腹黒いというか、計算高い節がある。 「まだやることあるから。はやく帰ってあったかいご飯食べてはやく寝なさい」 「ふふっ、はーい」  狙ってるだろ、そのキャラ。とも思うけど、かわいいもんだ。女子高生に好かれて悪い気はしない。  じゃ、さよならー、と手を振って帰っていく黒木の背中を見送る。  無意識のうちにため息がこぼれる。  困った生徒だ。  黒木に告白されたのは確か。  去年のバレンタインだったか。  もちろん丁寧に断りはしたものの、諦めないから、と言われてあの時は終わった。  それから黒木はふったことなんてなんら気にしてないような振る舞いで、今現在までおれにああやって話しかけてくる。  強いな、と思う。  高校生なんて、大人が思っているよりずっと強くて、ずっと大人だ。ただ、世界を知らないだけ。荒波にもまれてない原石なだけだ。
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