回想: 彼らと彼女と空白の数カ月

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その夜、土方は一睡もできなかった。 泣きながら眠ってしまった蒼妃を布団に寝かせて、自分も寝巻に着替えはしても。 眠っているはずの蒼妃の瞼の向こうからとめどなく流れ続ける涙が、無言で彼を責めているように思えて。 姿を消す直前の山崎の悲痛な表情が胸に突き刺さって消し去れなくて。 自分がここまで何も見えておらず、何もできない無力で無神経で残酷な人間だということを自覚して。 「……俺は、今までどれだけ大切な人間を傷つけてきたんだろうな。お前や山崎だけじゃない。何度も何度も、見えないところを斬り刻み、その傷口に塩を塗り込んできたんだろうな」 眠る蒼妃の手を握りながら、ポツリと呟いた彼の声には疲労が、今まで誰にも見せたことない疲労がにじんでいた。 「…………俺は、このまま、鬼であり続けられるだろうか。大事なものが増えすぎちまった。傷つけることが、苦しくなっちまった。 ……鬼が消えちまったら、ここはどうなっちまうんだろうな」 それは、彼が京に上ってから、いや、試衛館に入ってから、初めて漏らした苦悩だった。    
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