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毎度毎度、この二人のバタバタしたやり取りに巻き込まれ……いや、付き合わされている山崎も今回ばかりは苦笑ですませられなかった。
自分だって、強くなりたかったのだ。
立場上、隊士たちのように公に蒼妃に稽古を乞えない身は、時折ひどく苦しかった。
彼らが技を磨き、心を鍛えている間、自分は一体どれほど成長しているのかと、闇の中で考えたりもした。
彼女の強さを目の当たりにするたびに、ひそかに自分の立ち位置を危ぶんだりもした。
消えた彼女を見つけ出せなかったとき、自分の存在意義すら見失いそうになった。
誰にも知られないように、必死で隠し通してきたけれど。
山崎だって、他の誰にも劣らないほど強さを求めているのだ。
そうでなければ、此処にいるわけがない。
なのに、この人たちは。
餌をちらつかせたと思ったら、手を伸ばそうとしたその瞬間、それを取り上げた。
山崎が求めて、求めて、求めて、それでも決して手を伸ばそうとしなかったものを。
彼の前にぶら下げて、まるで玩具のように――――。
「…………ええ加減にせぇや」
「……は?」
「どうかしましたか?」
低い、低い。
地の底から響いてくるような、どすの利いた山崎の声に、思わず二人は眉をひそめた。
今まで彼が二人にこんな口のきき方をした事がない事を考えれば当然の反応かもしれない。
そして、次の瞬間。
山崎の怒りが、爆発した。
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