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喧嘩をしていたのは、少し悪そうな面持ちの男子だった。ベースを担いでいるので、ベーシストだろう。喧嘩は強そうだ。そして、男子の相手の女子はギタリストのようだ。結構長い髪で、少し癖のあるヘアースタイルだ。見た目からして、二人とも同い年だろう。彼女は少し怯えているな。
「はじめて会った奴に言われたくねぇよ。何をやってるか、どれくらいできるか分からねぇ奴によ。」
少し威張っているようにも聞こえた。俺はむかっときたので、女子にギターを貸してくれと言った。女子は戸惑い気味に俺にギターを手渡した。一般的なレスポールだ。このレスポール独特の重さはこれでしか味わえない。
俺は六年間で鍛えてきたギター・テクニックを披露した。簡単な早弾きのフレーズだ。このフレーズは、確か二週間で覚えた気がする。レスポールも、繋いである機材も上等なものらしく、俺の弾いたフレーズが心地よく第二音楽室に響いた。
「上手いな…俺以上だ。」
「本当…上手。」
男子は目を見開いて唖然としていて、女子は手で口を覆って驚いていた。上手と言われたのは初めてなので、気分は良かった。誉められるというのはここまで心地いいものだったのか。
「クソ…こいつは本物だ…」
そういうと、男子は教室の奥の方に消えていった。女子は床にぺたんと座り込んで溜息をついた。
「ギターありがとう。えっと…」
「あ、うん。長咲春希」
「そうか。よろしくな。」
「うん。ありがとう。」
長咲は、ギターを抱きしめて微笑んでいた。改めて見ると、可愛い子だ。声も透き通っていて、いい感じだった。
「この部活に入るの?」
「ああ。顧問は良いって言ってたから。」「そうなんだ。よろしくね。」
怯えていたときとは態度が違う。楽しいような、とても安心したような、そんな感じが彼女からした。
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