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だから、過去のことしか思い出せないのか?
部活でもするか。
次の日。
「あ、健一くん。おはよう。」
「おはようございます。」
朝、廊下を歩いていると、我がクラスの担任が俺を見つけたのか、話しかけてきた。ともえ先生は笑顔だった。微笑ましい光景だ。
「…」
「ん?どうしたの?」
「あ、いえ、なんでもないです。あはは。」
「そう。変な健一くん。」
ついまじまじと見てしまった。秋和の言うことは本当だ。近くで見ると、より俺の好きだった人に似ている。声も似てるし、しぐさも似ている。よく考えたら、名前も同じだった。
「…ともえ…」
「へ?何?」
はっ!しまった。中学のときに実際に好きだった人を「ともえ」と呼んでいた。懐かしいな。というか、今はそんなことはどうでもいい。なんとか話題を作らないと、ともえ先生に変な印象を与えてしまう。これから一年間お世話になる人に、そんな印象を与えたくない。
「いえ、何でも。大したことじゃないんで。」
「何か悩んでるの?力になるけど。」
「そうですか。じゃあ…」
俺は、昨日思ったこと、部活をしようと思っていることを話した。過去に好きな人がいたんだけど、今はもう接していないのに、四年たった今でも忘れられない現状にあって、部活をやれば夢中になって忘れることができるのではないかと思って部活をやりたいと。
「え…健一くん、部活やってないの?」
先生は目を見開いて言った。そういえば風が丘高校は部活に入らないといけなかったんだっけ。変なこと聞いちゃったかな。
「うーん、できなくはないと思うけど、どこに入ろうと思ってるの?」
「はい。軽音楽部にしようかと。」
俺にできることは音楽ぐらいしかない。小学五年生の時に出会った趣味だ。六年間やっているが、どうかな。顧問に聞かないと分からないけどな。
「そうねぇ。入部届持って顧問に聞くしかないわね。朝のホームルームで、入部届渡すね。」
思ったことと同じ答えが帰ってきた。まぁ、それしかないんだがな。
「分かりました。ありがとうございます。」
「うん。頑張ってね。」
別れ際にガッツポーズをしてくれたことに喜びを抱いて、俺は教室に向かった。
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