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「食欲がわいたならよかった」
「ん」
「さて……と、御茶でも淹れようか?」
「水がいい」
「わかった」
冷蔵庫から水を取り出すとグラスになみなみと注ぎ入れ朔に手渡す。
「ありがとう」
「どういたしまして」
芙蓉も少しだけ水を口にするが後はグラスを手の中でゆらゆらと弄ぶ。
「……芙蓉?」
ぼんやりと水を眺める芙蓉に朔の声は届いていないようだった。
こんなに近くにいるのにと焦燥感に駆られた朔は芙蓉の腕を掴む。
「芙蓉」
「……え?」
はっとした芙蓉が顔を上げると気遣わしげな朔と視線がぶつかる。
「どうしたの?今日は何かあるの?」
いや……と言葉を濁す芙蓉。
続く言葉を待ち続ける朔に根負けした芙蓉はぽつりと言う。
「鬼だとか疫病神だとか言う扱いされていたなぁ……と妙に感慨深くてな」
誰が?
なんて愚問だ。
あの女だけは許すまじと、朔はぎりっと奥歯を噛み締めた。
「…………」
「引くだろう?だからもう聞くな」
困ったように笑う芙蓉を力一杯抱きしめる。
「朔……苦しい」
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