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「ん」 でも朔は腕に込めた力を緩めることはなかった。 もっと早く出逢いたかった。 そしたら、芙蓉にそんな悲しい思いをさせなかったのに、なんて実に非現実的な考えを巡らせている自分の醜い妄想を見透かされたくなかったのだ。 「朔」 「殺してやりたい」 「こら」 「八つ裂きにしちゃう?」 「こら」 「それとも芙蓉がされたのと同じようにじわじわ痛め付けようか?」 「朔……っ!」 「だってなんかやっぱり納得いかない」 「朔……そなたは軽々しく殺すだとか八つ裂きにするだとか口にしてはいけない」 諭すような優しい声音。 「…………」 納得いかないと目でも訴えかけてくる朔に芙蓉は優しくその頬に触れる。 「朔の言葉は重いのだから」 「ん……」 「私は大丈夫だから」 もう過去のことなのだから、と努めて柔らかく微笑んで見せる芙蓉が堪らなくいじらしくて、荒んだ心を誤魔化すかのように朔は頬に宛がわれていた手を掴むと啄むようにキスをした。
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