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風にそよいだ生成りのカーテンがライティングデスクの上をゆったりと撫で、出しっぱなしになっていたボールペンに触れた。
コロコロと転がり、音を立てて床に落ちる。
……よく、寝てる。
夕暮れ色の放送部室で、彼女は机に伏せ、ぐっすり眠り込んでいた。
再び吹き込んだ風が、サラサラの黒い髪を微かに揺らす。
昨晩も、遅くまで原稿を読む練習をしていたのだろうか。
起こすのは可哀相だけれど、下校放送の時間も迫っているし、そろそろ選定の仕事を始めなければならない。
「椎名」
気持ち良さそうな寝息が、風の合間を縫って耳に届く。
「……椎名……」
俺の声に反応したのか、んん、と拗ねたような声が漏れた。
後方から覗き込むと、人形のようなまつげがしっかりと閉じられている。
……相変わらず、無防備すぎだろ。
俺は頬を緩めながら、優しく揺り起こそうとその細い肩に手を伸ばした。
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