第3章

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「ところで」 巻き毛は、可愛らしく首を傾げて、 「私、入部したいんですけど。 …どうしたらいいですか。 一応、経験者なんですけど、入部テストとか、あります?」 …経験者…。 そう聞いて、その堂々とした佇まいに納得した。 普通、初めてこの部室に入ると、機械の物々しさと独特の雰囲気に何となく呑まれるものだが、彼女にはその様子がない。 「いや、…テストは特にないよ。 …経験者って、中学で?」 「いえ、地元のラジオ局で」 俺は意外な返答に目を瞬いた。 「私、児童劇団に入ってて。 …お仕事で、『子供のニュース』っていう夕方の番組を、小4の頃から5年間、担当してたんです」 「そう。…すごいね。それは一人の番組?」 「はい。…ニュースを読んだり、はがきを読んでアドリブで感想を言ったり。 たまに、近所の商店のおばちゃんがゲストで来たりして。すごくローカルな番組でしたけど」 俺は改めてこの生徒を観察した。 …なるほど。…どうりで、度胸が据わっているはずだ。 「受験をきっかけに、児童劇団は辞めちゃったんですけど…。 『恋パラ』でしたっけ。昼休みに聞いてるうちに、血が騒いじゃって。…あれって、1年生じゃ担当させてもらうの、無理ですか?」 「いや、…学年は、関係ないよ」 …これは…。 もしかすると、すごい人材が飛び込んで来てくれたかもしれない。 俺は昂ぶる気持ちを抑えながら、努めて冷静に聞いた。 「…取りあえず、名前を教えてくれる?」 巻き毛は、とても美しい笑顔を浮かべた。 「はい。1-Aの坂口です。坂口万優架です」 .
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