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「坂口万優架、ね」
榊先生は席に戻ると、机の上に積まれていたファイルを手に取り、開いた。
「成績もいいし、すごく真面目だよ。
見た目が派手だから、ちょっと誤解されやすい部分もあるけど」
言いながらページをめくり、ふと手を止める。
「これだ。…内申書の内容も、悪くない」
差し出されたファイルを受け取り、俺は立ったままそれを眺めた。
「ただ、…少し孤立しやすい部分もあるみたいだな。
俺も一度、教室で、男子相手に啖呵を切る所を見たことがある。
…部外者として聞いている分には、スカッとしたけどな」
榊先生はそう言って、思い出し笑いをした。
「1-Aの坂口は、僕もなかなか面白いと思いますよ」
その声に顔を向けると、榊先生の机の斜向かいに座る、現国教師の奈津川先生が、机の上で手を組んで微笑みを浮かべていた。
「先日、授業で、課題を出したんですけどね。誰かが誰かに宛てた手紙を、自分なりに解釈する、っていう。
坂口は、武田信玄が春日源助に書いたラブレターを取り上げて、それはもう辛辣にこき下ろしていましたよ。
恋を成就させるアドバイスなんかもしてましてね。
教室は大爆笑でした」
それを聞いて、俺はどうしても坂口の解釈を読んでみたくなった。
「奈津川先生」
俺は机に身を乗り出した。
「その課題を見せていただく事は出来ますか」
先生は笑って、いいですよ、と言って引き出しを開き、プリントの束を取り出した。
「1-Aの分です。
…他にも、色々面白いものがありますから、是非ご覧になってみて下さい」
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