第3章

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「坂口万優架、ね」 榊先生は席に戻ると、机の上に積まれていたファイルを手に取り、開いた。 「成績もいいし、すごく真面目だよ。 見た目が派手だから、ちょっと誤解されやすい部分もあるけど」 言いながらページをめくり、ふと手を止める。 「これだ。…内申書の内容も、悪くない」 差し出されたファイルを受け取り、俺は立ったままそれを眺めた。 「ただ、…少し孤立しやすい部分もあるみたいだな。 俺も一度、教室で、男子相手に啖呵を切る所を見たことがある。 …部外者として聞いている分には、スカッとしたけどな」 榊先生はそう言って、思い出し笑いをした。 「1-Aの坂口は、僕もなかなか面白いと思いますよ」 その声に顔を向けると、榊先生の机の斜向かいに座る、現国教師の奈津川先生が、机の上で手を組んで微笑みを浮かべていた。 「先日、授業で、課題を出したんですけどね。誰かが誰かに宛てた手紙を、自分なりに解釈する、っていう。 坂口は、武田信玄が春日源助に書いたラブレターを取り上げて、それはもう辛辣にこき下ろしていましたよ。 恋を成就させるアドバイスなんかもしてましてね。 教室は大爆笑でした」 それを聞いて、俺はどうしても坂口の解釈を読んでみたくなった。 「奈津川先生」 俺は机に身を乗り出した。 「その課題を見せていただく事は出来ますか」 先生は笑って、いいですよ、と言って引き出しを開き、プリントの束を取り出した。 「1-Aの分です。 …他にも、色々面白いものがありますから、是非ご覧になってみて下さい」 .
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