112158人が本棚に入れています
本棚に追加
「…よっぽど好きなんだな」
「……」
俺がぽつりと漏らした言葉に、板東は顔を真っ赤に染めた。
「…俺、…こういうの、初めてなんで」
「…え?」
「いや、もちろん、何人か付き合った事はあるんですけど、
…今までのは、向こうから告白されて、何となくOKして、みたいな感じだったんで。
こんな風に自分から好きになるとか、初めてで…よくわかんなくて」
「……」
小さくなって赤面する坂東が自分の高校時代と重なって、照れ臭いような、愛おしいような、不思議な感覚に包まれる。
…本当に、お似合いだ。
今の俺は、…こんな風に誰かをまっすぐに想う事なんて出来ない。
「…お前には…」
言いかけて、俺は口をつぐんだ。
「え?」
「いや、何でもない。
…とりあえずあいつ、まだ恋愛経験ゼロだから。
今どき珍しいくらい真っ白な子だから、大事にしてやって」
「…やだなあ、まだ知り合ってもいないのに、気が早いですよ先生」
苦笑いをしながらも、板東は嬉しそうだった。
「よし、…そろそろ行かないと、本鐘が…」
俺の言葉を遮るように、ちょうどチャイムの音が頭上のスピーカーから流れ始める。
「春山先生、ありがとうございます」
もう一度ぺこりと頭を下げ、坂東が軽い足取りで教室に入って行くと同時に、男子トイレから青木が飛び出して来るのが見えた。
「ほら、危ないから走るなって」
笑いながら声をかけ、前方の入口へと向かいながら、俺はたった今呑み込んだ言葉が、苦く胸につかえているのを感じていた。
――お前には、勝てそうにないな。
…何を考えてるんだ、俺は…。
眩しいほどの坂東の想いを目の当たりにするたび、胸の奥がちくちくと疼く意味を、俺は必死で揉み消そうとしていた。
最初のコメントを投稿しよう!