第21章

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  「…よっぽど好きなんだな」 「……」 俺がぽつりと漏らした言葉に、板東は顔を真っ赤に染めた。 「…俺、…こういうの、初めてなんで」 「…え?」 「いや、もちろん、何人か付き合った事はあるんですけど、 …今までのは、向こうから告白されて、何となくOKして、みたいな感じだったんで。 こんな風に自分から好きになるとか、初めてで…よくわかんなくて」 「……」 小さくなって赤面する坂東が自分の高校時代と重なって、照れ臭いような、愛おしいような、不思議な感覚に包まれる。 …本当に、お似合いだ。 今の俺は、…こんな風に誰かをまっすぐに想う事なんて出来ない。 「…お前には…」 言いかけて、俺は口をつぐんだ。 「え?」 「いや、何でもない。 …とりあえずあいつ、まだ恋愛経験ゼロだから。 今どき珍しいくらい真っ白な子だから、大事にしてやって」 「…やだなあ、まだ知り合ってもいないのに、気が早いですよ先生」 苦笑いをしながらも、板東は嬉しそうだった。 「よし、…そろそろ行かないと、本鐘が…」 俺の言葉を遮るように、ちょうどチャイムの音が頭上のスピーカーから流れ始める。 「春山先生、ありがとうございます」 もう一度ぺこりと頭を下げ、坂東が軽い足取りで教室に入って行くと同時に、男子トイレから青木が飛び出して来るのが見えた。 「ほら、危ないから走るなって」 笑いながら声をかけ、前方の入口へと向かいながら、俺はたった今呑み込んだ言葉が、苦く胸につかえているのを感じていた。 ――お前には、勝てそうにないな。 …何を考えてるんだ、俺は…。 眩しいほどの坂東の想いを目の当たりにするたび、胸の奥がちくちくと疼く意味を、俺は必死で揉み消そうとしていた。    
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