第4章

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目の上に伏せていた本をパッと取り払われ、いきなり太陽光に晒された眩しさに、俺は顔をしかめながら目を覚ました。 目を開こうとしたが、光の強さに瞼がそれを拒否しようとする。 「一葉日記…。どうしたんですか、先輩。急にこんな本読んで」 真嶋の不思議そうな声。 俺はベンチから身体を起こし、未だショボショボする目を瞬いた。 やっと視界が保てるようになると、真嶋が目の前に差し出した本が目に入る。 「樋口一葉から、女心でも学ぼうって気にでもなったんですか」 からかうような視線を一瞥し、俺はパッと本を取り上げた。 「昼休み、あとどれくらい?」 「あと20分もありますよ」 見回すと、寝る前には誰もいなかったはずの屋上に、ぽつぽつと生徒達の姿があった。 金網を挟んだ隣の校舎の屋上はさらに賑やかで、バレーボールやキャッチボールをする生徒達の姿が見える。 昼休みとは言え、生徒の前で眠りこんでしまった事を反省しつつ、俺は膝の上で再び本を開いた。 目に留まった文章を、読み上げてみる。 『みぐるしく、にくく、うくつらく、浅ましく、かなしく、さびしく、恨めしき、厭う恋こそ、恋の奥なりけれ』 「…なんですか、それ」 「…なんだろな」 俺はパタン、と本を閉じた。 .
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