第4章

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…椎名、って言ったっけ。 俺は、あのプリントに書かれていた文章を、記憶の中から呼び起こしてみた。 いや、決して、特別な解釈ではなく、ごく普通の、ものすごくシンプルで、ストレートなメッセージだったと思う。 どちらかというと、…一葉に肩入れしすぎの、幼い言葉。 それなのに、…意に反して、ぐらぐらと心が揺さ振られたのはなぜだろう。 ああいうシチュエーションを目にすると、男としてはつい、桃水の言い分も聞いてあげて欲しくなる。 男が世間体を気にするのは当然だし、一人の女性の人生を背負うには、それなりの覚悟がいる。 でも、…どんなに、桃水の味方で居てあげようと頑張ってみても、いくら理屈を捏ねようと、 『桃水は、ずるい』 結局、このセリフに戻って来てしまう。どうしても、抜け出すことが出来ない。 何だか、この感覚がやけに新鮮で、…俺はつい、図書館で『一葉日記』まで借りてしまったのだった。 …1-Aの、椎名。 …どんな奴なんだろう。 「先輩」 ぼんやりと考え込んでいた俺は、真嶋の呼びかけで我に返った。 「…ん?」 真嶋は俺が座る二人掛けのベンチに並んで座った。 「…何だよ、近いよ」 「いいじゃないですか、遠かったら内緒話が出来ないでしょ」 真嶋はニッと微笑んで、声を落とした。 「この前の合コンメンバーから、お誘いがありまして。 来週の土曜日の夜、またご飯を食べる席を設けましたんで、空けておいてください」 「俺、悪いけど…」 「ダメですよ、先輩は強制参加」 「……」 .
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