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保健室に向かって行くと、引き戸が半分開け放ったままになっているのが見えた。
近付くと、中から校医の塩谷先生の声が聞こえて来る。
和やかな雰囲気で話しているようなので、大きな怪我ではないのかもしれない。
俺は少しほっとしながら、保健室を覗いた。
「失礼します」
「おお、春山くん」
塩谷先生は、目じりにたくさんの皺を寄せ、笑顔で迎えてくれた。
ベッドの傍らに立つ坂口万優架も、こちらに顔を向けた。
「あれ。…先生、どうしたんですか」
「うん。ボールがぶつかった瞬間を隣の屋上から目撃したから。気になって」
やや棒読みでそう答えると、俺はさりげなくベッドに近づき、白パンツの顔を覗いた。
「え。…気を失ってんの?」
「いえ、今、塩谷先生と話してるうちに、寝ちゃったんです。すやすやしてるでしょ」
耳を澄ますと、確かに、微かな寝息が聞こえている。
…見事な、熟睡…。
俺は、その無邪気な寝顔にふっと頬を緩めた。
真っ白な肌と、ほんのりピンク色の頬、紅い唇。
おでこには四角いバンドエイドを貼られ、微かに口を開けて目を閉じている。
「どうしよう…。可哀相なことしちゃったな。傷が残ったりしなきゃいいんだけど…」
坂口は本当に心配そうに言って、手のひらで頭を撫でた。
「まあ、まずその心配はないだろうな。ほんの浅い擦りキズだから」
塩谷先生の言葉に、少しだけ安心したように笑みを返す。
…とりあえず、良かった。
俺も内心、胸を撫で下ろした、
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