第4章

8/18

112119人が本棚に入れています
本棚に追加
/847ページ
呑気な寝顔を何も考えずに眺めていると、坂口がくすっと笑った。 「なんか、動物の赤ちゃんの寝顔を見てるみたい。やけに癒されちゃう」 …言えてる。 あまりにピッタリな表現すぎて、俺は吹き出すのを堪えた。 「塩谷先生」 坂口万優架が先生の方に顔を向けた。 「この子、よく保健室に来るでしょう」 「ああ、そうだな」 見ると、塩谷先生は机に向かって、書類に何かを書き込んでいた。 「…なんで?」 俺が聞くと、坂口は困ったように首を傾げ、 「分からないけど、授業中、後ろの席が空席になってることがよくあって。 聞いたら、保健室で寝てるとか、学校休んでるとか、多いみたいなんです。 …学校、楽しくないのかなあ。うちのクラス、けっこうみんな仲が良くて面白いから、溶けこんじゃええば楽しくなると思うんですけどねー」 坂口は不思議そうに、そして少し残念そうにそう言った。 白パンツが、桜舞う中、入学早々深いため息をついていたことを思い出す。 …そうか。 …カウンセリング室に通う理由は、その辺りか。 俺は改めて寝顔を見つめた。 先日、不登校についての勉強会に参加してきたが、不登校児が学校に通う事への意味を見失うまでには、それぞれ、10人いれば10通りの理由がある。 いじめなど、明確な理由があるものから、ただ何となく、というものまで、本当に様々だ。 でも、…思いつく理由のそのどれも、この平和な寝顔には当てはまらないような気がした。 .
/847ページ

最初のコメントを投稿しよう!

112119人が本棚に入れています
本棚に追加