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その時、コンコン、というノックの音とほぼ同時に、ガラッと引き戸が開いた。
「こんちはーっす」
入ってきた人物を見て、俺は驚いた。
「塩谷先生、ちょっと気分が悪いんですけど、横にならせてもらっていいですか」
田辺陽平が、のんびりした口調で言った。
「おお、いいよ。奥のベッドを使ってな」
塩谷先生が、ボールペンでベッドを指差す。
「寝てる子が居るから、静かにするんだぞ」
「はい」
田辺は、具合が悪いという自分の言葉を忘れているかのように、はきはきと返事をした。
ベッドに向かって来る姿を見て、気付く。
彼は、右ひざをかばうように引きずっていた。
「…こんにちは」
ぺこりと頭を下げられ、俺は我に返って会釈を返した。
…右ひざが痺れているんだ。
俺は今日子先生の言葉を思い出した。
『…たまにその怪我をした膝が痺れて、歩けなくなっちゃうみたいなの』
発作の前兆だろうか。
すれ違う瞬間に目に入った田辺の額には、うっすら汗が滲んでいた。
塩谷先生のこの様子からみても、彼が保健室の常連であることは間違いなさそうだ。
田辺はベッドにどかっと腰かけると、上着を脱いで傍らのカゴの中に置き、
「それじゃ、おやすみなさいっ」
と大きな声で言って、さっさと布団に潜り込んでしまった。
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