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しばらく続けるうちに、症状は大分落ちついたようで、田辺の顔色が良くなって来た。
「どうだ、痛みは」
塩谷先生が顔を覗き込むと、田辺はしっかりと頷きながら、大丈夫です、と答えた。
横にしていた身体をゆっくりと仰向けにして、大きく息を吐く。
「良かった良かった」
塩谷先生はゆったりした口調で、捲り上げていたズボンの裾を下ろした。
「…いつもすみません、先生」
「いやいや、大したことはしとらんよ。そう謝るな」
塩谷先生はにっこり皺をよせて笑ってから、カーテンを半分開け、デスクの方へ歩いて行った。
田辺は膝を何度か曲げ伸ばしてから、俺の方を見上げた。
「えっと…」
「あ、社会科の春山」
「春山先生…。すみません、ありがとうございました」
言いながら、俺の顔をじっと見て、記憶を辿っている。
「昨日、柔道場で会ったかな」
「あ」
田辺はやっと思い出した、という顔をした。
「あの後、めちゃめちゃイケメンと、やたらワイルドな先生が来たって、皆で話してたんですよ」
人懐っこい笑顔に、俺も表情を緩めた。
「でも、気をつけた方がいいかもです」
「え?」
「あの後、二人がデキちゃってるらしいって、噂で持ちきりでしたから」
「……」
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