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俺が呆然と立ち尽くしていると、
「佐久間先輩って、分かります?」
「え。うん。3年のだろ」
「そうですそうです。佐久間先輩が言いだしたんですよ、確かな筋からの情報だって」
「……」
…佐久間め…。
俺がこの上なく苦い顔をすると、可笑しそうな笑い声が上がる。
「助けていただいたんで、お礼です」
田辺はカメのようなことを言って、おでこを掻いた。
…めちゃめちゃ、いい奴だ。
俺は田辺の顔をじっと見つめた。
こいつが抱えている物を、少しだけ楽にしてやることが出来たら。
俺は、近くにあった丸椅子を引き寄せ、腰かけた。
「田辺」
「はい?」
「ちょっと、話したいんだけど、いいかな」
「え。…いいですけど」
田辺は不安そうに顔を曇らせた。
始めて話す教師からこんな風に言われたら、誰だって穏やかな気持ちではいられないだろう。
「彼女はいませんけど、彼氏の募集はしてませんよ」
「……」
「…すみません、冗談です」
…とりあえず、佐久間への報復については後々、ゆっくり考えよう。
俺は軽く咳払いをして、改めて椅子に座り直した。
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