112158人が本棚に入れています
本棚に追加
ひとまず俺は、この場所にやって来た本来の目的を遂げる事にした。
小銭を取り出し、自動販売機に一枚ずつ投入する。
いつもの銘柄を選び、ボタンを押すと、ガゴン、とかなり大きな音を立て、缶コーヒーが落下した。
缶を取り出し、渡り廊下の真下から数歩離れてから、覚悟を決め、上を見上げる。
その瞬間、真っ白な太ももが目に入った。
ちょうど風が吹き上げ、スカートをふわりと持ち上げながら、落ちかけた桜の花びらを再び巻き込み、昇った。
風が去り、再びスローモーションのように花びらの雪が舞い落ちていく。
…今朝の星座占い、確かうお座、1位だった。
頭の片隅で考えながら、俺は教師らしい毅然とした声を心がけ、呼びかけた。
「ちょっと」
反応は無い。
ここからだと顔が見えないので、俺は2歩、後ずさりした。
「そこの女子。…おいってば」
さらに一歩、後退する。
やっと気付いたのか、ボンヤリちゃんは埋めた顔をピョコっと上げ、キョロキョロし始めた。
「…下。こっち」
彼女は、手すりの向こう側からこちらを覗きこんだ。
黒目がちな大きな目を見開き、口も半分開けてこちらをじっと見下ろしている。
…全く、呑気な顔して…。
しかも、…必要以上に、可愛い。
「そこに、立たない方がいいよ」
俺が言うと、その女性徒はぱちぱちと目を瞬き、こちらをじっと見返した。
.
最初のコメントを投稿しよう!