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「…………っ結局一秒オーバーだわ」
引き伸ばした影を戻していく。
『だいぶ安定はしてきたのでは?』
すぐ後ろで声が聞こえて
ビックリして振り返った。
「なんだ………シンか」
『僕で悪かったですね』
「そういう事を言ってるわけじゃ無いよ。なんかずいぶん機嫌が悪そうだけど……」
『…………僕自身に対して怒りが沸いて来ているんです……』
「ふぅん…………シンエイもそういう事があるんだ」
『いつもしていますよ』
優くんの事はさっきから気が付いてたけどあえて聞かない。
何となく予想がつくし。
「でさ、結構簡単に倒せたみたいだね」
『ええ。僕のエリアに入れましたから優さんが優先的に攻撃が出来るように設定しました』
「そんなんじゃいつまで経っても成長しねぇっつーの。まぁ、アレの事情があるからしょうがないっちゃあしょうがないけどさ」
『そうですよ、でなければ彼は自滅してしまいます』
「俺に厳しいくせに優くんと朝木には甘いねぇ……でもそうなる前にシンが割って入ればいいんじゃね?」
『忘れましたか? 僕の定義を』
「いや、覚えてる。術式はそれをペテンに賭けるんだろ」
『ええ、僕が導いた事の行く末を傍観すること。それが僕の定義』
「それ、面倒だな………まぁ、俺もシンと結んじまったからなぁ………破棄できないんだよね」
右手を上げてパタパタ振った。
手首にうっすら写る痣のような鎖の模様は俺とシンしか見えない。
『それも一応貴方の定義ですよ。力の授受が誓約の「分かってるよ。ちゃんとやってやるさ」
『期待してますよ』
「あぁ………。じゃ、俺、先に戻るわ」
優くんを抱えたシンは目を伏せてどうぞと言わんばかりに会釈をした。
俺の足元から黒い靄が立ち上る。
それが俺をすっぽりと覆い尽くした直後、感覚という感覚が急激に広がって大気に融けた。
しばらくしたら多分シンも同じ方法で宿に戻るだろう。
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