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手を広げてやってくる奴に
俺は消されるかもしれない恐怖に
立ち上がり後ずさる。
「もう良いんだ。お前が抱え込まなくて」
「本当に………」
「お前が居たからここまで来れたんだ。なっ?」
奴の視線が俺ではなく後ろに行っているのに気がついた。
「ああ」
振り返れば幼き日の俺がいる。
これは……幻なのか?
「今までありがとう。いつもすぐそばに居たからオレも君も気が付けなかった」
そいつは俺へ手を差し出した。
「オレ、逃げずに頑張ってみるよ」
いつの間にかそいつは今の俺に、
俺は幼い頃の姿になっている。
この時に気がついた。
「ああ……だから俺、あれより前の事、覚えてなかったのか」
俺は“翔”の手を取った。
「……俺は、守りたかったんだ………。けどいつの間にか自分が消えないように……守るのに……必死に………なってた」
「それでも、そうだったとしても……やっぱり君はオレを守っててくれたんだ」
その言葉になんだか救われた気がした。
「……もう、大丈夫だな」
そう言って俺は笑う。
「俺はお前に還るよ」
笑ったけど上手く笑えたかは分からない。
「ウン。そうだね。消えるんじゃない。戻ってくるんだ」
にぱ、と翔は笑う。
「おかえり」
その言葉に全ての感覚が白に還る。
ただはっきりと分かるのは
その時オレは泣いていた。
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