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某日の深夜、某橋の上にて。
「……ここか」
その少年は真っ暗な橋の真ん中に立ち、1人っきりで呟いた。しかし、
「成る程、つまり噂通りという事か」
誰かと会話をするように、少年は相槌を打った。
少年が腕時計を確認すると、時間は1時10分。見るからに学生であるその少年が徘徊していていい時間は超えている。
しかし、少年はそんな事は気にも止めない。
「……もうすぐだ」
秒刻みの時計をジッと見つめる少年。
秒針が20秒を指すと、少年は橋の端へ歩いた。
『自殺多発。飛び降り禁止。命を大事に』
自殺防止のサビた看板に目を通し、少年は呆れてため息をつく。
「こんなんで防げる程、『想魔』はヤワじゃない」
少年は呟き、意味深なため息をつきながら手すりに触れた。
「……解ってる。俺は大丈夫だ、って……、俺の心配なんかしてないか」
少年は不可思議な独り言を呟きながら、再び腕時計を見た。どうやらかなり時間を気にしているらしい。
「あと5秒……、4、3、2、1……」
カウントと共に、少年は漆黒の瞳を下の川へ移した。
高さはおおよそ15メートル。死のうと思えば確かに死ねる高さかもしれないが、自殺名所とするには些か物足りない高さでもある。
下の川には、橋と少年が反射で写っている。しかしふと、まるで川が呼吸をしたかのように、静かに流れていた川に写る少年が波紋を拡げた。
「……来た」
そう言って目を閉じた少年の背後に、突如ソレは現れる。
ぼろぼろの黒い布切れを全身に纏うのは、汚れた石灰のような肌に骸骨のような細い身体。
そしてその細すぎる身体にはあまりにも不釣り合いな大鎌を持ったそれに、顔は無かった。
いわゆる化け物。というより、極めて有りがちな『死神』がそこに居たのだ。
その死神は大鎌を掲げ、振り向く事の無い少年に殺気を向けた。
「食事の時間だ」
そして、少年は呟いた。
驚く事なく、振り向く事なく、それがあたかも当然のように。
「始めるぞ、――餓神」
やはり不可思議な独り言を呟いて、少年は振り向く。
――赤い瞳に赤い髪。
血のりのついた唇からは2本の牙がはみ出ており、目前の死神と同様、その少年も化け物と呼ぶに相応しい風貌だった。
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