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彼の存在
「千紗、大切な人忘れることってどういうことだろう?」
教室の窓の空を眺めながら、思ったことを口にする。
「自分次第なんじゃん?」
「え?」
「忘れなきゃいけないなら、忘れればいい。忘れられないんだったら、忘れなければいい」
私の周りの人たちは、どうして心を見透かすのだろう。
「漣くんが言ってた。自分の足で歩けって。だから、私は漣くんを忘れなきゃいけないの」
「舞がそう決めたんなら、それでいいんじゃない?」
「うん」
漣くん、ごめんね。
あなたのこと忘れます。
そして、新しい仲間と共に今を精一杯生きます。
でも、もしあなたに会いたくなったらあなたを思い出します。
私をずっと優しく見守ってください。
「海くんに話があるの。ちょっといいかな?」
「ん…、なんだ?」
「私と付き合ってくれないかな」
また、あの屋上で私はひとつの決心をした。
「漣くんの変わりとかじゃなくて、海くんとして付き合いたいの」
「いつかは、あいつを必要とする」
「それはないよ。もう決めたことだから…」
海くんの手をギュッと握って、真っ直ぐ見据える。
彼も気づいたのか、握り返してくれた。
「辛い時は、泣けばいい。楽しい時は、笑えばいい。俺は、大丈夫。もし、お前があいつに会いたくなったらいつでも変わりになってやる」
「うん」
優しい風が私たちをそっと包み込む。
お互いの気持ちを確認しながら、私は海くんをギュッと抱きしめた。
彼の体温がじわりと伝わるのを感じた。
この空と雲は、今の私と海くんなのだろう。
ふたりで寄り添いあって静かに時を刻んでいく。
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