5人が本棚に入れています
本棚に追加
雲ひとつない青空。
黒板に擦れるチョークの音。
運動場を駆け回る生徒の足音。
この世界は、視覚聴覚で成り立っている。
授業を受ける気も起きず、私はずっと外を見つめていた。
「世界ってこんな広かったっけ…」
世界には、何万人という人で埋め尽くされているのに、こんな人の気配さえない時がある。
ふと、顔を伏せた時、私の耳に聞き覚えのある曲が流れてきた。
それは、漣くんが大好きだった曲。
「漣くん…」
それはまるで、漣くんが私に聞かせているような美しい声だった。
また、彼を思い出してしまう。
海くんを見ると、少しダルそうに授業を受けている。
ダメだよ。
これ以上、彼を傷つけるなんて…。
首を左右に振り、彼の存在を一時的に消す。
「日向、今日元気ないね」
「え、そう…?そんなことないよ」
ごまかした。
本当は、元気なんてない。
でも、心配かけたくなくて咄嗟に嘘をついた。
「それならいいけど」
そう言ってるけど、海くんはきっと気づいてる。
わざと言わなくて、胸がキリッと痛んだ。
初めて沈黙が続いた。
私も海くんも何も言おうとしない。
気がつけばもう私の家だった。
「帰ったらメールする」
「うん…」
「ひとつ…聞いていいか?」少し間を置いて、頷く。
「お前は、俺といて楽しいか?」
「え…?」
「これは、俺の予測なんだが、俺といる時の顔が寂しそうに感じる。あいつといた時のほうが楽しかったんじゃないか?」
また、彼を傷つけた。
何かと漣くんのせいにして逃げていた。
どうしてだろう…すごく胸が痛い。
最初のコメントを投稿しよう!