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「楽しかったね」
「うん。舞、バナナチョコいくつ食べたの?」
「んー、3つ」
呆れ顔だが、千紗は笑っていた。
それに釣られて私も笑う。
時間が経つのは本当に早いものだ。
気がつけば、お祭りが終了の時間だった。
あんなに騒がしかった会場が、今では静けさで溢れ返っていた。
「千紗、それなに?」
「あ、これ?これはねあたしん家で恒例のいか焼き」
袋に入ったいか焼きを見せながら、美味しいよと付け足して笑った。
「私も買えばよかった」
「また今度、買えばいいじゃん」
「そうだね」
それから私たちは、沢山の話を交わした。
千紗とは高校から知り合って、会話を交わすようになってお互い信頼できる仲になった。
でも、知らないことも多々ある。
家族のこと、友人のこと、中学時代のこと…。
そんな会話を弾ませながら歩いていると…。
~♪
私の携帯が電話の着信を知らせる。
「もしもし?」
声を控えめにしながら、電話に出るとそれはお母さんからの着信だった。
「どうしたの?」
なかなか口を開かないお母さんに声をかける。
「舞…、落ち着いて聞きなさい」
ひとつ深呼吸し、お母さんは一言告げた。
「漣くんが…亡くなったわ」
「え…?お母さん、なに言ってるの?こんな時に冗談やめてよ」
「冗談で言わないわよ、こんなこと。お母さん、芦屋病院にいるから…」
そう言ってお母さんは、電話を切った。
携帯を閉じるのも忘れ、私はその場で突っ立っていた。
どうすることも出来なくて、どうしたらいいのかもわからなくて、私はただ、その言葉を頭の中で何度もリピートするだけだった。
千紗が私に声をかけるが、全く耳に入らない。
聞こえるのは、お母さんが言ったあの言葉だけ。
もう、漣くんは私の側で笑ってくれない。
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