68人が本棚に入れています
本棚に追加
「うぅわ!」まぬけな悲鳴を出して、誘拐犯は後ろへ倒れ込みました。その更に後ろには、眼を真っ赤にした浮雲さん。「だめだよぉ…女の子とちゅうなんかしちゃあ…」実は先程、既に済ませているのですが。「お、ま、え、なあ…急に出てきてなんなんだよ?」「だってだってぇ、ふーちゃんがぁ…」「意味がわからん」「ふーちゃんの、馬鹿…」「学年五位をつかまえて、馬鹿はないんじゃないのかな」「ふーちゃんは馬鹿だもん」「そーだそーだっ」私も浮雲さんに加勢してみます。しかし誘拐犯がこの私を差し置いて学年五位とは…世も末です。「万年赤点のアトリちゃんにだけは言われたくないな」「私は勉強が出来ない訳ではなく、やらないだけなのですよ」「よくもまあ堂々とそんな使い古された詭弁を…」「うるさいうるさいっ」誘拐犯は、馬鹿というか、鈍感なのでしょう。私も他者の気持ちには鈍感な方ですが、浮雲さんが誘拐犯に恋慕の情をもっていることくらい、わかります。まあ、乙女心を解さないやつは、馬に蹴られて死んじまえ、です。「ふーちゃんは、昔っからそう…」浮雲さんは、私の心を読み取ったかのようなタイミングで言いました。「浮雲のこと、全然、なんにもわかってないんだ」「そんなことないよ」誘拐犯は、信じられない!という調子で応えました。「僕が一番時間を共有してきたのは他でもないおまえなんだよ、浮雲?幽霊だけど、おまえは僕の唯一無二の理解者だ。この部屋に縛られたおまえを、ちゃんと成仏させるって約束、僕、絶対果たすから」なんだか、二人の間には心温まるストーリーがあるようです。浮雲さんは、睫毛を震わせて今にも溶けてなくなりそうです。「ふーちゃんは、ふーちゃんは浮雲が成仏して、この部屋からいなくなってもいいの…?」「それは…寂しいけど、仕方ないだろ?いつまでも成仏できなかったら、その分天国の御両親に会うのが遠くな…」「浮雲、あいつらなんかに会いたくないもん!!ずっとふーちゃんと一緒にいる方がいいもん!!てゆかそもそも、浮雲は無神論者だから天国の存在なんて信じてないもん!!」幽霊さん、あらぶってます。
最初のコメントを投稿しよう!