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「な…っ!?おまえ、前と言ってることが違う!」誘拐犯の唖然とした表情に、私は思わず笑ってしまいました。「うぇっ、うぇっ…だってぇ、その方が幽霊っぽいかなって…」幽霊も、『っぽさ』を気にする時代なのですね。「そんなこと言ったってさ…どうすんだよ、浮雲。このままこの部屋に縛られてたら、悪霊とか…そういう悪い何かになっちゃうんじゃないのか」やれやれです。「ちょっと、誘拐犯」「え?悪いけどアトリちゃん、いま取り込み中なんだ」やれやれやれやれです。「いいから聞け!ですよ。いいですか?誘拐犯。幽霊をほっといたら悪霊になるだなんて、誰が言ったんです?漫画か何か?ソースはどこなんですかソースは」「いや、確証があるわけじゃないけどさ…一般的に、そういうものでしょ?」「この厨二病が!!」「え!?」「実際に死んでみたこともないくせに、偉そうなことをいうんじゃないですよ!」「いや、別に偉そうなこと言ってるわけじゃ…」「黙れ学年五位が!」「…けっこう根に持つね、アトリちゃん」「とにかく!本人がここにいたいと言うんだからいさせてあげればいいじゃないですか?幽霊なんだから、光熱費もかからないし」「いや、そういう物質的な問題じゃなくて……はあ。まあいいよ」私の華麗なる口撃に、すっかり撃沈した誘拐犯は肩をすくめてお手上げのポーズをとりました。「ふーちゃん…?」浮雲さんが、心配そうに彼の顔をのぞき込みます。「いたいんだったら、好きなだけここにいるといいよ。もう成仏を強制したりしない」「わぁい!!ふーちゃんだいすき!浮雲、ずっとふーちゃんといる!」浮雲さんは、誘拐犯にふわりと抱きつきました。これにて、ハッピーエンド。私は、空気を読んで空気になりました。「ただし、悪霊とかになったら、僕は躊躇なくお祓いを呼ぶからな!」「うんっいいよ!浮雲、悪霊になんかならないもんねっ」「それだけを切に願うよ…」「まだ言いますか」「ああ、そういえばアトリちゃん、いたんだったね」失礼な!「帰ります」「はは、どうやって?」私は渾身の力をこめて立ち上がろうとしましたが、無理でした。「あははは!アトリ、すごい顔!真っ赤っか!」浮雲さんが嗤います。うう、幽霊に嗤われた。「アトリちゃんの力じゃ無理だよ」「くぬうううう」
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