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そもそも、浮雲は自分がいつ幽霊になったかなんて覚えてないんだ。気付いたらこの部屋にいて、目の前には小さな男の子がいた。その小さな男の子ってのが、ふーちゃんなんだけどさ。これがとっても可愛いの。浮雲はその頃からもうこの姿だったから、ふーちゃんの遊び相手になってあげてたんだ。ふーちゃんは、ふーちゃんのママをこの部屋に連れてきて、浮雲を紹介してくれようとしたんだけど、ふーちゃんのママには浮雲のこと、視えなくて。ふーちゃん、ずいぶん落ち込んでたなあ。でもそれ以上に落ち込んだのは、ふーちゃんのママだったんだ。まあ、当たり前のことかもね。自分の息子が虚空を指差して、オトモダチ!オトモダチ!なんていうんだから。その出来事が直接的な原因だったわけじゃないんだろうけど、ふーちゃんのママはそれから少しずつ壊れていったんだ。潮風に腐食されていく鉄みたいに、彼女の精神はゆっくりと錆びついていった。ふーちゃんは自分を責めていたけど、浮雲はふーちゃんのせいじゃないって思ってる。きっと、最初から、繊細すぎる人だったんだ。ふーちゃんは正気を失ったママに、希望を捨てないでっていつも話しかけてたんだよ。浮雲も、ふーちゃんのママがもとの聡明なママに戻るのを心から祈ってた。浮雲にも責任はあるからね。でも、だめだったんだ。ふーちゃんのパパが、先にだめになっちゃった。二人は小さい頃からの幼馴染で、本当に仲のいい夫婦だったんだけれどね…。きっとパパは、ママじゃなくなっていくママを見ているのが辛かったんだろう。ママを連れて、死んじゃったんだ。この家にふーちゃんをおいて。
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