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ボクは、そんな彼らが可哀相になってきて、同情した。大人になっても、こわいものはこわいんだね。ボクたち子供が大人を無敵の生き物に感じてしまうのは、彼らがこわがっている自分を上手に隠すからなんだ。ボクの両親は、恐怖を怒りで包み込んで隠してた。威嚇する子猫と一緒さ。ボクは、彼らに抵抗するのをやめた。怒りを受け容れてあげるのが一番の攻撃だと思ったんだ。そしたら…ははっ、ねえ、あの人たち、どうしたと思う?一人息子を天井裏に監禁だよ、監禁。ボクは、暗くて狭い部屋に押し込まれたんだ。狂ってるよね。御丁寧にも、裸同然で。極めつけは、これ見よがしに置いてある、ロープと剃刀と睡眠薬。天井裏だから、ロープを括りつける柱には困らないし、これは画期的!…ここまであからさまにされちゃあ、誰でも悟るよね。自殺を要求されていることを。でも、要求されて実行する自殺って、自殺といっていいのかな?ま、今となってはどうだっていいや。あの状況じゃ、自殺なんか願ったり叶ったりだったんだ。浮雲になったボクには関係ない。どう?早崎アトリ。これが浮雲の過去。面白かった?おや、顔色が優れないね。オンナノコには刺激の強すぎる話だったかな。え?そうじゃなくて?ト…トイレに行きたいぃ!?あーあー。浮雲しーらない。ふーちゃんが帰ってくるまで我慢するんだね。え?無理無理、連れていけないよ。浮雲は幽霊だもん。まあまあ、いよいよ限界がきたら、もらしてしまえばいいじゃない。ふーちゃん、君の排泄物なら喜んで処理するよ。多分。ん?気色の悪いことを言うな?だって本当にそうだもん。早崎アトリ。君が知らないだけで、ふーちゃんは、君に異常な執着心を持っている。この浮雲にじゃなくて、君に。でも、浮雲は感謝もしてるんだ。両親の裏切りと喪失の中から彼を救いだしてくれたのは、他でもない、早崎アトリ、君なのだから。…身に覚えがないって顔だね。ふーちゃんが最初に君を見つけたのは、中学にあがってしばらくしてからのことだ。季節は夏で、たしか、学校へ向かうバスの中だったと思う。
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