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目が覚めたら、アンティークのどデカイ椅子に囚人縛りで拘束されてました。
「…なるほど」
残念なことに、性根の腐った(複数の意味で)私は、この異常な状況にコンマ2秒で順応するだけのキャパを備えておりました。
幸い目隠しも口封じもされておらず、周囲の様子を視覚的に取り入れ想像し、妄言を吐くという行為が可能だったのです。
しかし決して、助けなどという無粋なものは呼ばぬ心構えでした。
私はもうすぐ命を絶つつもりでしたから。
部屋はがらんとしたフローリングで、えーと、たぶん六畳くらいです。
私の座る椅子の他には家具もなにもありません。
窓もないんですよ。
そういう仕様なのです。
きっとお金持ちの社長さんが大枚はたいて設えたプライベートルームで、日夜あんなことやそんなことが行われているのでしょう。
「お目覚めかな?」
不意に、扉の開く音がして、背後から声がしました。
やはり殿方の声でした。
「ええ」
私はこっくりと頷きました。
「早崎花鶏ちゃん…で間違いないね?」
「はい」
私は卒業生の点呼よろしく良いお返事をしました。
「いいお返事だね」
嬉しそうな声と共に、首筋を撫でられました。
「やめてください」
さすがの私もぞくりとしました。
「ごめん」
「あなたは誘拐犯ですね?」
「違うよ」
「ええー…
女子高生をこんな風に縛り付けておいて何をほざいているんですか?この犯罪者」
「縛られてるの、痛い?」
「別に痛くないです」
これは強がりでした。
「そうか、良かった
ロープを緩めてもいいけれど、きつく縛られているアトリちゃんはとても魅力的だから」
「気色悪い下種野郎ですね」
「口が悪いな、アトリちゃん。
本当は痛いんじゃないの?手。」
「痛くないっつってんだろうが!ですよ」
「強がらなくていいよ。
ほら、肌が赤くなってる」
犯罪者は、やれやれという様子で私の正面に現れました。
その人物の顔に見覚えはありませんでしたが、服装を目にした瞬間、度肝を抜かれました。
「その学ランは…」
犯罪者は、私の手首に巻かれたロープを緩めながら
にこりと笑ってみせました。
「びっくりした?」
「私の学校の制服ですね
あなたは高校生ですか。
こんなことをして…親が泣きますよ」
「ははっ
僕に親はいないよ。
アトリちゃんと一緒」
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