欠陥少年と欠落少女の邂逅

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何様のつもりなのかは知らないが、僕は心の中で、海に向かって「やるじゃないか」と声をかけていた。真っ青に凪いだ海原は彼女のいい惹き立て役だったし、選択の舞台としては申し分ない場所だった。いや、偉いのは誰あろう、ここを選んだ彼女なのだ。うんうん。うだるような暑さのせいで、僕の思考のベクトルはふにゃふにゃになっていた。彼女は暑くないのだろうか。心配になりながらみていると、彼女はおもむろにセーラー服の紺色のリボンをほどき、大切そうに鞄にしまい込んだ。そして、立ち上がって大きく深呼吸をすると、波止場から身を投げ出した。なんでえええええ!?僕は息を飲んだ。確かに、生きようと決めた意志を感じたのに。僕は思わず電柱の陰から一歩を踏み出した。その時、ちゃぷちゃぷと水を蹴る音がした。電柱によじ登り、海面を確認すると、彼女は制服のまま、実に優雅に背泳ぎしていた。安堵のため息を漏らして地上に降りると、焼けたコンクリートに抱きついていたせいで、全身がじりじりと痛みだした。僕も海に飛び込みたかったが、それは流石にまずいと思い、自分の身体にふぅふぅと息を吹きかけて我慢した。彼女が羨ましかった。それから約二時間、彼女はずっと遊泳していた。時折、水を蹴る音が止むので心配になり、死ぬ思いで電柱を登って確認すると、彼女はぽかんと口を開けて水面に浮かんでいた。セーラー服の襟が彼女の頭を包み込むように広がり、エリマキトカゲみたいに見えた。虚脱状態で波間を漂いながら天を仰ぐ彼女の瞳はいま、空色をしているに違いない。僕も彼女と同じ色を瞳に宿したくて、天を仰いだ。これで、おそろいだ。陽射のせいで目が少し痛かったけれど、同じ空を映す僕たちの瞳の色は、きっと。
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