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「…一緒にしないでください」
「ツンケンしてるなあ…
いつになったらデレてくれるの?
ツンデレの黄金比は9:1だよ」
「永久にデレませんよ!」
「ふぅん…まあいいけど。
ところで僕の顔に見覚えはない?」
「ありません」
「ひどいなあ…。
一年のとき、一緒に図書委員を勤めた仲なのに。
まあ今は学年変わって隣のクラスになっちゃったけど」
「私、図書委員の仕事を…」
「ことごとくサボってくれたよね」
「ええ」
「僕ひとりで、大変だったんだからね?」
「ふぅん」
「…反省の色が見えないな。
お仕置きしてもいい?」
「いいですよ?」
「え゙」
「そのための拘束なのでしょう?
どうぞご存分に」
「あのね、そんなにすんなり受諾されても困るんだけど」
「知りませんよ。
抵抗しようにも縛られてるんだから」
「…アトリちゃんは、性格悪いよね」
「お褒めにあずかり光栄です」
誘拐犯は、私の両手の上に自分の手を添え、ゆっくりと身を乗り出して私に口付けしました。
温度のない唇でした。
「…誘拐の目的はこれですか」
私の言葉に、誘拐犯は苦笑しながら頷きました。
彼の手は私の太股に這い降り、気持ち悪いくらい優しく撫でています。
「僕とじゃいやかな?」
「別に」
誘拐犯はまた苦笑し、
やれやれと立ち上がりました。
「お腹空いてない?」
「空きました」
「何かリクエストがあれば作るけど」
「オムライス」
「はは、即答だね。
好きなの?」
「好きです」
誘拐犯は、少し赤面したかと思うと盛大に咳払いしはじめました。
「…調理をするならちゃんと手を洗ってからにしてくださいね」
「…毒入りオムライス、期待して待ってて」
性格が悪いのはお互い様のようです。
私は誘拐犯の背中を見送りながら、ふん、と鼻を鳴らしました。
□
「お待たせ、アトリちゃん」
「待ちくたびれました」
良きかほりを漂わせながら、誘拐犯が現れました。
学ランにエプロンは似合いません。
「お待ちかねの、毒入りオムライスだよ」
彼の持つお盆には、オムライス(ケチャップでLOVE、と書いてある)と氷のたっぷり入った紅茶が用意されていました。
「何ですか、そのLOVEってのは?」
「僕なりの愛情表現なんだけど」
「……」
「さ、食べて食べて?」
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