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後に残ったのは、空っぽの食器と、私の眠気だけでした。「全部食べたね。いいこいいこ」「子供扱いすんなよ、同級生のくせに。です」「…わざわざ敬語をひっつける意味はあるのかな。かなり違和感のある喋り方なんだけど」「敬語は、あなたへの警戒心の現れだと思って頂ければ結構です」「きみ、存外子供っぽいな」むむう。「失礼な誘拐犯れすね…私のろこが……」「あーあー。まぶたが閉じかけてるよ?食べたら眠くなるって、子供どころか乳児だな」「むむう…ぶちころすぞ…」「うわあ…眠そうな声で物騒なことを…」「ごにゅううう」「それ、眠気と戦ってる音?…おもしろいな、アトリちゃんは。さてと、僕は食器を片づけてくるから、アトリちゃんはそこで大人しく寝てなさい。…食後に寝ると牛になるっていうけどね」「うむぅ…もう、牛になろうがムカデになろうが土星になろうが、どうでもいいのですよぉ…」私は首を前後左右にぐらんぐらんとさせながら、誘拐犯に向かってシッシッと手を振りました。「僕は、よくないよ」「でもぉ…どうせなるならぁ…ピンク色のサンダルに…」「そんなの、僕が、させないよ」「そして、お便所に置いてほしい…」そこで、私の意識は途切れました。誘拐犯が二言三言、何か話しているのはわかりましたが、内容までは聞きとれませんでした。恐らく、昨夜一睡もしていなかったのが災いしたのでしょう。私は深遠な眠りの泥の中に崩れ落ちていきました。
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