それは小さなビックバーン

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「全く、何をやらしてもダメなやつだな!! だいたい、何だその能面みたいな顔は…接客の基本は笑顔だろ!!」 丸めたチラシで頭を叩かれるのは毎日の事。 説教の内容も毎日ほぼ同じだった。 人前で笑顔をつくる事が苦手でいつもおどおどする彼は、愛田正宗という名前がありながらも、バイト先の誰もにカオナシと呼ばれていた。 「あーもう面倒くせぇ。 何でオーナーがお前みたいなバイトを雇ったのか全く検討つかねぇ。 トイレ掃除でもしてろ!!」 正宗がバイトするのは、下町情緒溢れる商店街の中ににある個人経営のスーパー、“はなまるマート”。 薄利多売な経営方針が当たり、店内は連日買い物客でいっぱいだった。 さんざん説教をされた後、店長から言い渡されたトイレ掃除を正宗は嫌な顔ひとつせず、一生懸命取り組んでいた。 掃除を終えて、トイレから出るとサービスカウンターの前に人だかりが出来ていた。 これもまた、毎日の光景。 正宗は人だかりの原因である、同じくバイト店員の宮本太陽にゆっくりと視線を向けた。 芸能人顔負けな綺麗なルックスを持つ太陽は、はなまるマートのアイドルだ。 綺麗な顔から生まれる笑顔は、誰もがうっとりとしてしまう。 密かにファンクラブなるものが存在すると、言われているのも頷ける。 だけど、初めて太陽の笑顔を見たときからずっと、正宗はその笑顔に違和感を感じていた。 「笑ってるんだけど…楽しそうじゃないんだよな。」 気にはなるものの、バイトを初めて2週間、正宗は一度も太陽と接触する事はなかった。 「さすがだな、あの笑顔。 見習え少しは!!」 様子を見に来たのか、いつの間にか隣に立つ店長に正宗はすみませんと一言呟いた。 「お前、サービスカウンター入れ。」 突然突拍子もない事を言う店長に驚く暇もなく、正宗はサービスカウンターへと連行されていた。 店長が太陽に正宗の面倒をみるように命じる。 一瞬だけ眉毛を動かした太陽はピカピカの笑顔で任せてくださいと胸を叩いた。 「ついてねぇ。 何で俺がお前なんかの面倒を見なきゃいけないわけ? 正直キモいんだよな!! もうちょっと離れろよ。」 先ほどの愛想のよさはどこへやら、太陽は眉間に皺を寄せ正宗に向かって犬でも追い払うかのように手を払った。
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