出立~旅立ちの鐘が鳴る~

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~都内某所~ とあるアパートの一室に、一人の青年の姿があった。 見た目は20代半ば程、黒い短髪に縁の茶色い眼鏡を掛けた、優しそうな雰囲気を纏った青年だ。 彼は窓を全開にし、くわえた煙草に火をつけながら景色に目をやる。 眼下に広がるは、ろくに手入れされずに放置され雑草が延び放題となった庭と、下の階に住んでいる住人が育てているであろうよく分からない植物が植えられた鉢が、乱雑に置かれている光景。 その惨状に思わず苦笑いを浮かべながら視線を上に滑らせると、目の前には最近建ったばかりの新築マンションが飛び込んでくる。 このマンションが建ったお陰で、ただでさえ悪い日当たりが更に悪くなってしまった。 そんな嘆きとも愚痴ともつかない微妙な感情をしまい込み、青年は煙草の火を消し床に仰向けに倒れ込み溜息を吐く。 「今日も今日とて何も無し、か」 どこか諦めたような口調で呟くと、起き上がり再び煙草に火をつけて空を仰いだ。 青年は、物足りなさを感じていた。自宅と職場の間を行き来するだけの日々に。 何の代わり映えの無い毎日に。 かと言って、自ら進んで現状を変えようと言う気概もない。 ここ数日仕事で失敗を繰り返し、上司からは理不尽な仕事量を押し付けられ、同僚からは馬鹿にされ、常識知らずな後輩の面倒まで任せられる始末。 とてもでは無いが、彼が処理しきれる範囲を大幅に超えているのである。 故に。 「いっそ何処か遠くへ行きたいよ……」 やや現実逃避気味な言葉が出るのも致し方ないのかもしれない。 「やめておこう……これ以上は暗くなるだけだ」 彼は自分の言葉に苦笑し、立ち上がる。 フィルターギリギリまで吸った煙草を灰皿に押し付け、台所に向かって歩いていく。 まだ夕食を済ませていなかった事を思い出し、何か作ろうと思い立ったのだ。 料理は得意ではないが、一人暮らしを一年も続ければ嫌でも身につく。 人が食べても大丈夫な物くらいは作れるようになった青年は、取り敢えずある材料で適当なものを作ろうと冷蔵庫を開き……。 「ファッキン!!」 絶望の淵にたたき落とされた。
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