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彼がベランダから戻ると、彼女は一息吐いたのかPCの前で伸びをしていた。
随分早かったなと思い、青年は声をかけた。
「早いな、もう終わったのか。どれをやってたんだ」
「紅魔郷、しかもフラン戦」
「なん……だと……」
青年は絶句した。
自分ですら未だに六面のレミリア戦で死闘を繰り広げていると言うのに、妹にアッサリと先を越されてしまったのだから無理もない。
今、彼女がやっているのは東方projectシリーズの「東方紅魔郷」。
所謂弾幕系シューティングゲームで、難易度の高さと世界観が人気のこのシリーズ。
妹は歯応えのある難易度に。
兄はその世界観に。
この兄妹も、その魅力に惹かれた口だ。
「いやぁさすがEX、かなり手強かったよ」
「の割にはあっさりクリアしてんのな……」
何の説得力も持たない台詞を呆れながら聞き流しふと時計を見ると、後僅かで日付が変わろうかと言う時間に差し掛かっていた。
「もうこんな時間か。流菜、そろそろ帰った方が良いんじゃないか?明日も学校だろう」
何だかんだで結構な時間が経っている事に多少驚きつつも、妹に帰るよう促す。
彼女も時計を確認すると仕方ないといった様子で腰を上げた。
「あれまもうそんな時間か。仕方無い、今日の所は帰ってやろう」
「なんで上から目線!?」
兄のツッコミにケラケラ笑いながら「冗談だよ」と付け足し玄関へ向かう。
そんな妹の態度に苦笑いを浮かべながら、青年は後を追って歩き出した。
「時間も遅いし送っていくか?」
「徒歩五分も無いのに必要無いよ」
「バーロー、近いとは言え女の子が一人で出歩くには物騒な時間だ。それに知ってるだろう?最近行方不明者が出てる話」
「兄は心配性だなぁ……まぁ良いや、そこまで言うなら送らせてあげよう」
口では文句を言いながらも、何処か嬉しそうな顔をしながら承諾の意を示す妹。
その様子に満足したように頷くと、妹を送る為に青年はドアノブに手をかけた。
それが、人生の転機となる運命の扉となることを知らずに……。
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