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「こんばんは」
「えっ、あぁこんばん……は?」
扉を開けると、其処には見知らぬ少女が立っていた。
腰まで伸びた鮮やかな金髪。
見た目は妹と同い年かそれ以下。
夜だというのに日傘をさした何とも奇妙な行動。
浮き世離れした美しい顔立ち。
道士服と言う、日常ではまず見ることのない特殊な衣服。
ナイトキャップを思わせる珍しい帽子。
口元を扇子で隠し、品のある笑みを浮かべるその様。
しかし、その紫色の瞳は何処か胡散臭さを漂わせていて。
その全てが異質だった。
突然の来訪者と、彼女が放つ異様な雰囲気に戸惑いながら青年は必死に思考を巡らせていた。
何故こんな時間に?
女性が出歩くにしては些か遅すぎる。
今はそんな事はどうでもいい。
彼女は何者か?
知り合いなら直ぐに分かる。
が、確かに自分はこの女性を知っている。
だが彼女が此処にいる意味が分からない。
理由が無い。
道理が無い。
何故、八雲紫が目の前に存在している?
「まぁまぁ、そんなに警戒しないでくださいな」
思考の泥沼に沈みかけていた青年に女性……八雲紫が声をかける。
その一言で漸く我に返った青年は、何時の間にか吹き出していた額の汗を拭いながら再び意識を彼女へと向ける。
未だに混乱してはいるが、先程よりは幾分か落ち着きを取り戻していた。
青年の様子に満足したのか、彼女は話を再開した。
「本日は貴方にお話しがありますの。其方にとっても悪い話ではありませんわ。
お話し、聞いてくださるかしら?ねぇ……
藤澤賢斗さん?」
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