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既に隠居も同然の身となったとはいえ、教平は前左大臣の高位にいた人物である。
必ずや自分が頭を縦に振らなければならないような、筋の通った理由を目の前に突き付けてくれるだろうと信じていた。
が、父の口から洩れたのは、到底 聞き慣れない女人の院号だった。
「桂昌院さんや。桂昌院さんがどないしても、そなたを欲しいと言われてなぁ」
「……けいしょういん?」
「綱吉殿のご母堂さんのお名や。──ほら “ 玉の輿 ” の」
「まあ…、では二条さんの?」
小石君にはふっと頭に浮かぶものがあった。
かつて三代将軍・家光の側室に「お玉の方」という女がいた。
もとは二条家の家臣・本庄宗利の娘という彼女が、将軍に嫁いだことから『お玉が輿に乗って将軍に嫁した』が省略されて『玉の輿』の言葉が誕生したという話を聞かされたことがあったのだ。
ちょっとした有名人が生んだ男に嫁ぐのかと、小石君はそう思った。
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