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「表向きは幕府からのご意向となっておるが、この桂昌院さんがとかくそなたをご子息の嫁にと言い張っておってな…」
教平が重々しく息を吐くと、小石君は目の前の父の心中を探ってみたくなった。
「お父さんは、この事、如何お思い召されているのです?」
「こなたはどちらでもよいと思うておる」
「どちらでも?」
「嫁ぐにしろ嫁がぬにしろ、そなたの意思に任せよう、そう考えておるでな」
その返答に小石君は驚いた。
まだ13の娘に、父は人生の一大事を己の意に託したのだ。
兄であり鷹司家の嫡男・房輔も、九条家の養子に入った次男・兼晴も親の勧めによって縁組してきた。
小石君も無論、有無を言わされずに親の決めた相手と結婚させられるものと思っていたのだ。
「──のう、従子よ」
ふと教平は、湖水のように静かな眼差しを小石君に向けた。
小石君というのは公家の姫に与えられる君号であり、従子というのが姫の諱であった。
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