遠い、遠い、笑えない話。2

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そしてまたあの子は、 バイト先にきた。 今度は“客”として。 仕事は簡単。 決められた時間、 お客様と話すだけ。 話している間に、 あの人からメールが来た。 好きではないけど、 クラスで一番かっこいいあの人。 私なんかにメールを くれたのがうれしくて、 つい喜んでしまった。 あの子は、傷ついただろうな。 ある日、あの人は死んだ。 …いや、殺された。 犯人はわかった。 あの子だって。 でも、どうも思わなかった。 あの子が、どんなに傷ついて、 どんなに怒ったか。 考えてみたら、 自分を殺したくなった。 ある日、あの子の家にいった。 一人暮らしのあの子。 家族はみな、 事故で亡くなられたそうだ。 それを悲しい顔で 私に話すあの子をみて。 …あの子は、 ずっと1人ぼっちだったんだって。 それなのに、気付かず、 1人にしてしまった事があった。 あの子が紅茶を出してきた。 『えへへ、もらいものなんだけど 嫌いじゃなければ飲んでください』 比較的紅茶は嫌いじゃない。 それにあの子が 出してくれたなら 飲まないわけにはいかない。 紅茶が喉を通ると、 程よい甘みにまじった、 ほのかな苦み。 そこで私の記憶は途絶えた。 目が覚めると、 あの子の家のソファの上。 手は手錠で 足は足枷で 首には首輪と鎖が 私の動きは縛られた。 あの子は泣きながら、 ずっと謝っていた。 これが、 あの子を傷つけた 代償となるなら。 これで、 あの子が1人ぼっちに ならずにいられるなら。 これは、 私の望む現実だと。 どんなに傷つけられても。 どんなに涙がでても。 あの子を恨んだり、 怒ったりすることはなかった。 逆に無意識に、頬が緩んだ。 『…―一つだけ 尋ねさせてください』 「…なぁに?」 『どうして。笑っているんですか? 私、あんな事を貴女にしたのに。』 つらそうな表情の あの子の目を見る。 考えは伝わらなくても。 微笑みから、 なにか伝わらないかなって。 『どうして。 私の目を見て笑ってくれるんですか? 貴女は私を責めないんですか?』
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