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元亀3年(1572年)4月
京の東山でも、肌に当たる風が、幾分和らいできた。
田んぼの畦道には、土筆やふきが、暖かい陽光を浴びて、この2~3日の間に随分と丈を伸ばしている。
東福寺の寺内町から、少し外れた片田舎にある、小さな庵の中からは、女達の元気良い声が聞こえて来た。
「そろそろ良い?」
小春が、くたびれた布を腕の中に抱えて、竃の上に据えられた、土鍋の中を覗き込んでいる。
なみも土鍋に近づき、中を覗いてみた。
「そうねぇ…」
なみは、木のしゃもじを取り上げると、鍋の中へ突っ込んでこね回してみる。
土鍋の中には、薄白く濁った液体が入っていた。
なみがしゃもじを持ち上げると、その液体は、つつぅっと糸をひいて土鍋の中に垂れ落ちる。
小春が目をくりくりさせて、なみを見上げた。
「どう?」
「うん、もう良いでしょ。」
「わあ!」
小春がうれしそうに歓声をあげる。
「どれどれ。」
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