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密行などお手のものである。
結局佳代は、一人で危なげなく庵に帰り着いたのだ。
皆が土間に入ろうとする中で、何かに気づいた小春が、立ち止まって往来を眺めた。
「あ!」
小春の大声に、皆の足が止まってしまう。
「どうしたの?」
「ほら!南瓜のおじさん。」
「あら。」
一同も足を止めた。
南瓜のおじさんこと藤右衛門が、にこにこしながら近づいて来るのだ。
相変わらず、柿渋色の頭巾と小袖姿である。
「やあやあ、皆様、お集まりでございますな。」
藤右衛門は、往来の向こうで手を挙げながら、元気の良い声をかけてきた。
その後ろには、連雀を背負った商人達が続いている。
何時もの通り見慣れた光景だ。
ところが今日は、連れているのが商人ばかりではない。
なみが目を見開いた。
「兄上様!」
商人達の列に紛れて、藤右衛門の後から歩み寄って来たのは、立原久綱であったのだ。
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